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【原作寄り(?)】【本物夫婦設定】【春月抄・4コマ「狼陛下の家族計画」の先のお話】

「続・狼陛下の家族計画」63


その夜。
黎翔はそわそわする気持ちを押し殺し、後宮へ向かっていた。

夕鈴と同衾できるようになったと喜んだ直後、信頼の眼差しを向けられ悩んだのはつい昨日の話。
浩大からの報告を受けなければ、きっと未だに策を弄していただろう。
でも夕鈴も自分と同じ気持ちでいてくれると判った今、そんな事はもう必要ない。
全く彼女は予想外だと、つい笑みが漏れる。

(―――でも、夕鈴だしな・・・)
ここ数日の振り回されっぷりは十分自覚しているのだ。
もしかするとまた兎の罠に嵌っているのかもしれない。
そう警戒する気持ちも心の片隅にはある。
だからあまり期待をし過ぎないようにしなければ。

と、判ってはいるのだが、そんなに簡単には自分の感情をコントロールできる訳がない。
黎翔にとって夕鈴は、究極のご馳走なのだ。
しかも先日中途半端に堪能したせいで、飢えは深まるばかり。
彼女の体の為とか、子の為とか、罠かもしれないとか、全て判っていて尚、期待ばかりが膨らんでゆく。

(いやいや、やはり今日は抱き締めて眠るだけに―――)
そう考えたそばから、夕鈴の肌や甘い吐息を思い出し体が熱くなるのだ。
こんな状態で、彼女から可愛らしく誘われてしまったら。
とても我慢できる気がしない。

でも。
(一度は何もしないと言ってしまったしな・・・)
信頼できる夫として、ここは耐えるべきではないだろうか。
夕鈴は同衾すれば骨の髄まで貪りつくされると誤解している節がある。
一緒に寝ても何もしないと、一度は判らせておいた方が良いだろう。
特に今回のように彼女も望んでくれている時ならば、我慢をさせる分より強く印象に残るのではないか。
そして―――もしかしたら、焦れて夕鈴から『あの約束はもういい』と言ってくれるかもしれないではないか。
そうなれば黎翔の憂いは解決するのだ。

勿論優しくするつもりではいる。
夕鈴の睡眠時間はちゃんと確保するし、物足りなくても先日のようには抱けないだろう。
(でも、別に昼間ずっと寝ててもいいんだし)
自分が仕事でどうしても離れなければならない時に眠らせておけば良いのだ。

(では、やはり今日は可愛そうだが我慢してもらうしかないか・・・)
―――どんな反応をしてくれるだろう。
しょんぼりとしてしまうだろうか。
それとも、物欲しそうに見てくれるだろうか?
夕鈴はオトコマエな所があるから、頑張って本心を言ってくれるかもしれない。
これからの為にも、上手く宥めなければ。

そこまで考えると、黎翔は決意も新たに寝所へ入って行った。





のだが。
「お帰りなさいませ、陛下」
「た、ただいま・・・」
夕鈴は真面目な顔で寝台に正座をしていて、胸がとくりと跳ねる。
その様子はいかにも願いがあるように見えてしまったから。

可愛い可愛い妻にこんなに丁寧に願われて、否と言えるだろうか。
いや、勿論言うつもりではある。
だが元々甘えて欲しいと思っていた所に、しかも閨への誘いなのだ。
誘惑が強すぎて頭がくらくらしそうだった。

「あの・・・実は陛下のお願いがあるんです」
だから夕鈴がそう言い出したとき、黎翔は胸はどくどくと暴れ回っていた。
「―――何?」
笑みを貼り付けているのがやっとである。
だって彼女はとても言い難そうにしていたのだから。

「実は今日、侍医さんと話をしてて―――少しの運動は、むしろした方がいいって言ってもらったんです」
「侍医が?」
「はい」
運動をした方が良いと遠まわしに言ってくるのは、夕鈴らしいと思う。
でも、気になったのはそこではなくて。

(―――何故、侍医が?)
確かに安定期に入ったらしても大丈夫だと言わせるつもりだった。
でも浩大の話を聞いて舞い上がり、すっかり失念していたのだ。
元々は侍医が止めてきたのに何故と疑問が過ぎる。

(―――李順辺りが気を利かせたのか?)
口では大事な時期だからと諌めてきたが、黎翔が欲求不満になって政務が滞るのを一番嫌がるのは李順である。
だから侍医に指示して、話をさせたのだろうか。
(老師は世継ぎを望んでいたのだから、危険とされる事は勧めないだろうし・・・)
浩大は色々とちょっかいを掛けて楽しんでいる節もあるが、今回のような場合では口出しして来ないだろう。
ならば、やはり李順だろうか。

そう考えていた黎翔は、続く夕鈴の言葉に一気に引きずり込まれてしまった。
「あの・・・ですから、体を動かしたいと思ってて・・・駄目ですか?」
見れば頬を染めて上目遣いの夕鈴とばっちり目が合ってしまって、胸がきゅぅぅんと絞られてゆく。
黎翔の頭の中では『二人で体を動かしたいと思ってて』に変換されているのだから尚更だ。
「で・・・でも、まだ少し早いんじゃないかな?」
「そんな事ありませんよ!元気な赤ちゃんを産む為に必要な事だと思うんです。陛下さえいいって言ってくれれば、侍医さんも許可してくれるそうですし」
「・・・っ」
つい先刻まで焦らしてやろうと考えていた野心は、一瞬で霧散してしまった。

自分さえ良ければ?
そんなもの、良いに決まっている。
だってそれこそがずっと望んできた事なのだから。

考えてみれば、少し自分は遠回りをし過ぎていた。
ならば今回は素直に皿の上の兎に手を付けるべきではないだろうか。
折角夕鈴もその気になっているのだ。
このチャンスを逃す手はないだろう。

「うん、判った。いいよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
夕鈴はとても嬉しそうに笑ってくれて、期待は高まるばかり。
「でも、無理はしないようにしなくちゃね」
「はい!」
元気な返事を聞きながら、自分こそが無理をさせないで済むのかと内心苦笑が漏れる。

そして誤解は解けぬまま、黎翔は寝台へと潜り込んだのだった。

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「続・狼陛下の家族計画」65



ここに居たら危ない。逃げなければ。
ううん、変な所に行くんじゃ駄目だ。あの人に会わなければ。

そう決意して、窓から抜け出した。





元々器量良しだったと思う。
他にも綺麗な子は沢山いたけど、薄茶と言う微妙な色の割に、自分は可愛がられた。
だから―――いつか誰かに取り入ってやるつもりだった。
そうすればこの先安泰だから。
将来の心配をする必要もなく適当に媚を売れば良いなんて、こんなに楽な事はない。

より金持ちに。
より偉い人に。
愛想を振りまきながら、冷静に値踏みして。
そんな時に現れたのは、他の人から丁寧に扱われている一人の男だった。

その男は少し神経質そうに見えたけど、自分を触る手付きは慣れているようで―――案外悪くないと思えた。
寂しがらせてはいけないと言う人もいるが、正直な所あまり構われすぎるのも鬱陶しい。
優しくして欲しい時だけ相手をしてくれればいいのだ。
その点、男は良い感じに無関心のようだった。
だからあちこち見られても大人しくしていた。
他の子は寂しがりが多いせいで、不安を感じたのだろう。
その男に抱かれると、もがいて暴れて逃げ出した。

自分がちょっと変わっているのは判っている。
でも必要以上に触られまくるくらいなら、適度な距離を保ってくれる人の方が良い。
だから自分が選ばれた時には、内心ほくそ笑んだ。

連れ帰られ、綺麗に洗われて。
自分の読み通り、男はかなり身分が高いのだろうとすぐに判った。
だって召使がたくさんいたのだから。
こんなに人を雇えるだけの財力があるのだ。
我ながら上手くやったと満足していた。

それなのに最終的に自分が連れて行かれたのは、それまでの部屋なんか比べ物にならないくらい広くて立派な所だった。
きっと今まで見た事もない程の金持ちだ。
そう直感が告げた。
これから毎日美味しい物を食べて、ふかふかの柔らかい所で安心して眠れるのだ。
自分はなんて幸運なんだろう。
もう会う事もないだろうあの子達に、自慢してやりたいと思っていた。
・・・のに。





人がいなくなった隙に、窓から抜け出すのは簡単だった。
外に出てしまえば身を隠す木々なんか沢山あったから。
人目を避けて、なんとかここから逃げ出さなければならない。
出来るだけ早く。

召使と思しき女が通り過ぎるのを待ち、木陰から顔を出して周りを窺って。
あの人の居る場所を必死に探り、用心深く進んでゆく。
―――彼にだけは、見つかってはならない。

あの夜。
自分はしょんぼりと項垂れた男の慰めになる筈だった。
別にそれはいい。人を慰めるのは不自然な事ではない。

でも、垣間見てしまったのだ。
肉食獣が狙いを定めてでもいるかのような、あの雰囲気を。
―――喰い殺されるかと、思った。

怖くて怖くて必死に逃げ隠れして。
暫くそうやって震えていたら、あの人が抱き締めてくれた。
お日様のように温かくて、優しそうな人。
この人とずっと一緒にいたいと思った。

それなのに、すぐに引き離されてしまったのだ。
あの人にもう一度会いたい。
優しく頭を撫でて欲しい。
その一心で奥へ奥へと進んで行くと。

「あれ?何でこんな所にいるの?」
求めていた人の声が耳に届き、駆け出した。





―――と思っていたかは判らないが、夕鈴は涙目の生ウサギに飛びつかれて驚きながらも優しく抱き締めた。
懐妊が判明した夜、黎翔に連れ去られた後―――結局今まで会えなかったのだ。
元々食用なのかもしれないと不安を覚えていたのだから、嬉しさもひとしおである。
「ふふ、元気そうで良かった」
ずっと寝台に寝かされていたせいで、小屋を作って飼えるようにすると言った黎翔の言葉を信じるしかなかったのだが。
「あんまり住み心地、良くなかったのかしら?」
こんな所で飛びつかれたのだから、逃げ出してきたのではないだろうか。
だって夕鈴は今、久しぶりに立ち入り禁止区域の掃除をしているのだ。
赤ちゃんの負担にならないよう重い物は持たないようにしているが、まだお腹も大きくなっていないせいもあって適度な運動が気持ち良い。

と、そこへ。
「夕鈴、ここ?」
回廊の角から、黎翔が姿を現した。
「陛下、お仕事は・・・」
「だって君が身重の体なのに掃除してるって聞いたから心配で。昼はゆっくり休んでていいんだよ?」
「ちゃんとお日様に当たるのも大切なんですよ」

やる気を見せる夕鈴と苦笑いを返す黎翔は、今だ誤解が解けていない。

働き者で頑張り屋の可愛い可愛いお嫁さん。
でも妊娠中にまでそんなに頑張らなくてもいいのに。
何とか言い包めて昼寝をさせなければ。
また昨夜のように爆睡されてはたまらない。
そう黎翔が思案した時。

「――――――」
「――――――」
夕鈴の腕の中でぷるぷる震える生ウサギとばっちり目が合ってしまった。
(何故これがここに・・・?)
夕鈴に飼っても良いと言ってしまった手前処分もできなかったが、なるべく彼女の目に触れないようにと李順に任せた筈なのに。
しかもまたしても胸に顔を埋めていて、軽い殺意が漏れるのを止められなかった。

「きゃっ。どうしたの?急に」
さすがに元々は野生動物。敏感に察したのだろう。
更に夕鈴の胸元深くへ入り込もうとした生ウサギを、黎翔はべりっと引き剥がした。

「?陛下?」
「ちゃんと小屋を用意するよう手配したんだけど、おかしいな。躾をしてから連れて行くから、もう少し我慢しててね」
「え・・・は、はい・・・?」
首を傾げる夕鈴ににっこり笑いながら、生ウサギを持つ手に力を込める。
「きゅっ!きゅーーーっ!!」
途端に怯えていた生ウサギは暴れ始めたが、黎翔は有無を言わせず袖で包むように片手で抱え込んだ。
夫である自分がお預けを食らっているのに、この生ウサギがお嫁さんの胸に顔を埋めるなんて許せる筈がない。

「急に体を動かし過ぎるのは良くないよ。浩大に送らせるから、もう部屋に戻ってて?」
「え?でも・・・」
「また後で動けばいいんだしさ。少しずつ、ね?」
「・・・はい」

小さな不満を残す夕鈴の額に口付けを落として、黎翔は未だ暴れる生ウサギを手に王宮へと戻ったのだった。

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「続・狼陛下の家族計画」67



月日は流れ、嫁にスルーされ続ける事数ヶ月。
黎翔はその日も悶々としながら政務をこなしていた。

あれから妊婦に関する知識を色々仕入れている。
父親になるのだから当然だ。
だから夕鈴が夜、異常なほど寝付きが良いのも子がいるせいだと今は理解していた。
それ所か彼女は悪阻などは随分軽い方らしく、戻したりと言った症状は見られない。
昼間は元気に掃除をしているくらいなのだ。
体を動かしたいと言われて許しはしたが、まさかあそこまで健康的な生活を送られるとは思わなかった。

何度誘おうとしても夕鈴は寝台へ横になった途端、すこんと深い眠りに入ってしまう。
時折生ウサギに妨害もされ、結局一度も思いを遂げられていない。
しかも日々チャレンジを繰り返している内に夕鈴は妊婦らしく腹も膨れてきて―――さすがにこうなると、侍医から止められている事もあり手を出すのは躊躇われてしまって。
(―――まさか、子作りがこんなに辛いとは・・・)
そう実感するばかりである。

母体は大変だろうと予想はしていた。
どんなに大事にしようが、最高の環境を整えようが、駄目な時は駄目なのだ。
子を産む際に命を落とす女性もいるのだし、何事もなかったとしても子を一年近くその身で育むのだから夫に判らない苦労は計り知れないだろう。
―――だが、男までこんなに辛いとは思ってもいなかった。

抱き締めて彼女の香りや柔らかい肌を感じられるのに、何も出来ないあのもどかしさ。
しかも夕鈴が生ウサギを抱いて眠ってしまうと、黎翔は警戒されているせいであまり近付けないのだ。
手を伸ばせば届く距離にいる愛しい妻に、触れられもしやしない。
元々我慢が得意ではない黎翔からすれば、拷問である。

(だが、夕鈴を危険な目に遭わせる訳にはいかないしな・・・)
子を望んで抱いたのではないが、欲しくないのではない。
夕鈴に似た可愛い女の子とか生まれたら、間違いなく目に入れても痛くないほど可愛がってしまうだろう。
男の子でも彼女に似ていたら。
そう考えるだけでわくわくする。

どちらに似ても体を動かすのは好きだろうし、下町も好きだろう。
夕鈴と子を連れてお忍びで下町へ。
そんな夢も、叶う時が来るかもしれない。

あまりに自分の欲求不満に疲れると、そうやって現実逃避をするのが最近の黎翔のストレス発散法だった。

と、そこへ。
「陛下、侍医より正妃様のお体についてお話があると―――」
「何かあったのか?今朝はいつも通りだったが・・・」
「いえ、お体に異常があるのではないようですよ」
「―――?大切な妃の話ならば、全て聞くが」
「ではこちらが片付き次第、と言う事で」
「ああ」
李順が急ぎの書簡を置いて出て行くのを、黎翔は首を傾げながら見送ったのだった。





早々に切り上げ、場所を移した後。
黎翔は僅かな不安を隠し、侍医と会っていた。

夕鈴は妊婦にしては全然元気だし、腹の子も今では動くようになっている。
だから何事もなく、万事順調だと思っていたのだ。
それなのに、夕鈴にではなく黎翔に話とは。

面倒な口上を聞き流し、表面上は威圧を纏って待っていると。
「正妃様におかれましてはすこぶる体調も宜しく、お子も順調なご様子。今までは夜もお控え頂くようお願い申し上げておりましたが、もう大丈夫でございましょう」
それ言われ、不覚にも一瞬頭が真っ白になってしまった。
「―――え?」
「勿論お子の事を考え、その―――優しく、して差し上げるのが大切ですが・・・」
王の閨の話なせいか侍医は少々言い難そうにしていたが、そんな事はどうでも良くて。

(―――解禁!?)
何ヶ月も、毎晩毎晩ずっと我慢していた。
そんな所に解禁の知らせは嬉しすぎる。
だがなまじ長い間悶々としていたせいで、すぐには信じられなかった。
今では夕鈴の腹も大分大きくなっているのだから、本当に抱いてもいいのか躊躇うのも当然だ。

だが。
「産み月近くなりますと、適度な刺激が良いと申します。正妃様の負担にならない程度なら、お子の為にもなりましょう」
「―――そうか」
黎翔の戸惑いを感じ取ったのか太鼓判を押す侍医に、そう答えるのが精一杯だった。
だって、子の為だと言うのだ。こんなに夕鈴を説得しやすい状況があるだろうか。

調べた所によると、子が生まれた後は体が整うまでまた抱けなくなる。
―――らしい。
と、なれば。
(今を逃したら、次はいつになるか・・・!)
黎翔的には結構死活問題である。

まだ新婚なのに、散々お預けを食らって。
やっと抱けたと思ったら家出された挙句、すぐに懐妊が判明して。
それから数ヶ月、ずっと我慢してきたのだ。

勿論侍医に言われた通り、優しく抱かなければならないだろう。
彼女が疲れないよう、細心の注意も払わなければならない。
でも、夕鈴の甘い肌をやっと味わえるのだ。
そう考えるだけで夜への期待が高まってゆく。

「今宵は早めに戻ってやらねばならんな」
黎翔の隠し切れない笑みは、頭を下げ拱手する侍医には幸いにも見られないで済んだのだった。

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「続・狼陛下の家族計画」69




李順に呆れ顔で送り出された後。
黎翔はそわそわする気持ちを隠し切れないまま、後宮へ向かっていた。

あの、夕鈴に家出される原因となった夜。
あれ以来、結局一度もコトに及ぶまで至っていない。
そんな所に愛しい妻を抱く口実が出来たのだ。
こんなに嬉しい事はないに決まっている。

(考えてみれば、新婚なのに酷い話だ)
禄に可愛がる間もなく、夕鈴は身篭ってしまった。
今までどれだけ自分が我慢した事か。
そう思えばやっと今夜こそと、感慨深いものすらある。

勿論、不安がない訳ではない。
子が順調な分、夕鈴の腹は本人が恥ずかしがってしまうほど大きくなっている。
黎翔は全く気にならないのに、膝へ乗せるのも『重いから』と言って嫌がるほどに。
そんな夕鈴を抱くのは、なまじ長い間お預けを食らっていたせいもあり彼女の体が心配になってくるし、何より―――自分の自制心がどこまでもつか自信がない。

でも今は大事な体、万が一にも何かあってはいけないのだ。
十分気遣ってやらなければならないだろう。
だから。

(やはり体位も考えてやらなければな)
どう可愛がってやろうか。
それを想像するだけで心が浮き立つようだ。

いつもは初心な夕鈴の為に正常位が殆どだが、今の体では腹を圧迫して辛いだろう。
ならば今夜は、今までやりたかったアレコレを試すチャンスではないか。
だって子の為と言う大義名分があるのだから。

黎翔は一度足を止め、思案した。
夕鈴の負担にならず、尚且つ自分も満足するにはどの体位が良いだろう。
後ろからだと可愛らしく恥ずかしがる表情が判らないし、何より腹の大きな妻の裸体など今でなければ見る事もないのだ。
と、なると。

(やっぱり抱き締めたいし)
座った自分に跨らせ、対面で。
子がいるせいか、夕鈴は最近は胸も以前よりふくよかになったように思えるのだが、何せずっとお預けで確認もしていないのだ。
それを堪能できるし、もし急に具合が悪くなってもすぐに気付けるだろう。

そこまで考え終えると、黎翔は足取りも軽く夕鈴の部屋へと入って行ったのだった。





「お帰りなさいませ、陛下」
「ああ、良い。そのままで」
顔を見せた途端夕鈴は大きな腹を重そうにしながらも立ち上がって出迎えようとしてくれて、手で制す。
そこまでは良い。健気で可愛らしい、いつものお嫁さんである。
だが、その腕に生ウサギが抱かれているのは頂けない。
実はこれもいつもの事なのだが―――今日は特に邪魔でしかなかった。

「―――――――食事がまだだろう?すぐに支度を」
相変わらず黎翔を見た途端ぷるぷると震え始めた生ウサギをべりっと引き剥がし、侍女へと手渡しながら指示を出す。
さすがに食事の時は夕鈴も大人しく手放してくれるのだ。
勿論、侍女には予め生ウサギをそのまま世話するよう言いつけてある。
長い間我慢し、待ち望んできた愛しい妻との夜の生活を邪魔されない為に。

「今日はお早いんですね。お仕事お疲れ様でした」
「うん、ありがとう」
侍女らが拱手し出て行ってから、黎翔は長椅子に座った夕鈴の隣に腰を下ろした。
そのまま肩を抱き、腹に手を滑らせる。
「調子はどう?」
「元気に動いてますよ。侍医さんにも順調だって言って頂きましたし」
「そっか、良かった」

最近では子が頻繁に腹を蹴るらしく、夕鈴は時折苦しそうにしていた。
それが黎翔にとっては心配なのだが、当の本人はどこ吹く風。元気に育っていると喜ぶばかり。
すっかり母親の顔をしている。

だが今回はそれも黎翔にとっては有利にしか働かない。
子の為と言うのは、そんな夕鈴にとって一番の言い訳になるのだから。

「実は今日、子の事で侍医から助言があってさ」
「助言?わざわざ陛下にですか?」
「うん」
あまり性急すぎないよう十分注意しながら、黎翔は夕鈴の様子を窺った。
これまでがっついて散々な目に遭って来たのだから、用心深くなるのも当然だ。

きっと夕鈴はあまり乗り気にはなってくれないだろう。
そう思えるほど、彼女は今の体型を気にしている節がある。
だからここは慎重にいかなければならない。

「あのね、赤ちゃんが生まれてきやすいように、少し刺激を与えた方がいいらしいんだ」
「刺激?」
「うん」

小首をかしげる夕鈴の可愛らしいさにきゅぅんと打ち抜かれながら、黎翔はあくまでも平静を装いながら続けた。
「どんなのですか?」
「実はね―――」
彼女の耳へ唇を寄せ、いかにも秘め事のように囁きを落とす。
と。

「―――っ!?」
夕鈴は一瞬で耳まで真っ赤になって慌て始めた。
「え、でも、あのっ」
「誤解しないで欲しいんだけど、これはほら、赤ちゃんの為だから!」
変な方向にぶっ飛んで行ってしまう前に肩をがっしりと掴み、あくまでも真面目を装って目を見つめる。
「皆が君に元気な子を産んで欲しいと思ってるからこその助言だしさ。僕だって身重の体にとは思うけど、大切な僕たちの赤ちゃんの為だし!」

子の為。
元気に産む為。
そこを強調しながら言い募ると、夕鈴は目を回しそうになりながら次第に覚悟を決めたような表情になっていった。

「ほ、本当に赤ちゃんにいい・・・ん、ですよね・・・?」
「勿論!じゃなきゃ僕だってこんな事、言わないよ。ずっと約束守ってたでしょ?」
今まで抱けなかったのは別の事情のせいだが、当然ここは良いように利用する。
「それは・・・確かに・・・」
「僕たちのできる全てを、赤ちゃんにしてあげよう?」

期待に暴れまわる胸の内を隠してにっこり笑いかけると、夕鈴は少ししてから顔を上げた。
「判りました。赤ちゃんの為ですもんね・・・!」
「うん!」

これで後の問題は自分の理性がどこまでもつかだけである。
食事をしている間に、何とか少し心を落ち着かせなければ。

そう考えた時、侍女が支度が整ったと伝えに来たのだった。

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まだ続くよ!



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